夜行バスの運賃でファーストクラスを求められた話

夜行バスの運賃でファーストクラスを求められた話

はじめに

前回、「小屋を建てろと言われたのに要塞が必要だった話」を書いた。

あの記事では「自分のスコープ見誤り」にフォーカスしたが、実はもう1つの要因がある。

クライアントの選定だ。


夜行バスとファーストクラス

あるクライアントとの仕事で、こんなことが何度も起きた。

夜行バスの運賃しか払っていないのに、飛行機のファーストクラスの速さと快適さを求めてくる。

しかも無邪気にではなく、戦略的にねじ込んでくるパターンだった。「ここまでやってもらったのに、これだけ追加するのは簡単でしょ?」という論法で、少しずつ少しずつスコープを広げていく。

1つ1つは「まぁいいか」で受けられる範囲に見える。でも積み重ねると、最初の見積もりとはまったく違うものを作っている。


なぜ気づかなかったのか

「NO」を言う基準がなかった

当時の自分には、「ここまでは受ける、ここからは追加料金」という明確な線引きがなかった。

これは技術的な能力の問題ではなく、ビジネスの設計の問題だった。

相手の行動パターンを見抜けなかった

振り返ると、最初の打ち合わせの段階で兆候はあった。

「安くしろ」と「ついでにやれ」は、似ているようでまったく違う。

「安くしろ」は値下げ交渉であり、スコープは変わらない。対処しやすい。

「ついでにやれ」はスコープ侵食であり、積み重なると元の契約が原形をとどめなくなる。こちらの方が危険。


自分もそうかもしれない

ここで正直に書いておく。

自分もAIに対して同じことをしているかもしれない。

「ちょっとこれもお願い」「ついでにこれも」「あと、これも一緒にやって」

AIには感情がないから断られないし、課金制だから追加料金の交渉もない。だから際限なく要求できてしまう。

でも、AIの出力品質はコンテキストの集中度に比例する。1つのセッションにあれもこれも詰め込むと、結局どれも中途半端になる。

夜行バスの運賃でファーストクラスを求めることは、AIに対しても起きうる。

むしろ「断られない相手」だからこそ、自分で線引きを意識しないと、成果物の品質が落ちる。


クライアント選定のチェックリスト

この失敗から、新規クライアントと仕事を始める前のチェックリストを作った。

赤信号(1つでも当てはまったら慎重に)

黄信号(注意して進める)

予防策

  1. スコープを書面化する:何をやるか、何をやらないかを明文化する
  2. 追加作業の判定基準を決める:「当初スコープに含まれない作業は追加見積もり」を契約に含める
  3. 最初の案件を小さくする:大型契約の前に、小さな案件で相性を確認する
  4. 「NO」のテンプレートを持つ:「それは追加作業になりますが、見積もりをお出ししましょうか?」

得た教訓

技術的なスキルがどれだけ高くても、クライアント選定を間違えると消耗する。

そして、自分がクライアント側になった時(AIに対して、外注先に対して)、同じことをしていないか振り返る。

夜行バスには夜行バスのサービスがある。ファーストクラスにはファーストクラスの料金がある。
どちらが良い悪いではなく、支払いとサービスが一致していることが、持続可能な関係の基盤だ。


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